たつこころかたよる

好きなことを好きなときに好きなように書き散らすブログです。

「新感染 ファイナル・エクスプレス」の話がしたい

 

最近のゾンビはわりと走る。
一昔前のゾンビというと「バイオハザード」シリーズよろしく、速度は遅いが、死角から不意打ちや閉所での物量で攻めてくるようなものが多かった。
しかし、近年はオンライン協力ゲーム「Left 4 dead」シリーズなどの爆発的普及などから、ゾンビはものすごい勢いで走ってくるようになった。生きている人間と違って体力切れを起こさないので、なんならそこらへんの車より早いこともある。

 

新感染 ファイナル・エクスプレス」はそういった近代ゾンビの流れを汲んでいる。
原題は「釜山(プサン)行き」であることからもわかるように、この映画はソウル発プサン行の高速鉄道(おおよそ新幹線のような乗り物)の車内を主な舞台としたパンデミック・ホラーだ。

 

この映画を一言で表すならば『洗練された王道』だと思う。

 

数百キロで走る列車や電車といったモチーフは、現代社会において貴重なクローズド・サークル(外界との行き来が断たれた状況、あるいはそういった状況による事件を扱った作品)だろう。
時代設定も2015年であり、かなりリアルな現代舞台であることが随所に感じられる。。
そして現代的であるからこその『絶望感』も存分に味わえる。

 

主な視点として描かれているのは、ファンド・マネージャーであり仕事人間なパパと、その娘。
このパパの家庭への興味のなさの描写がほんとうにエゲつない。簡潔かつエゲツなく、素晴らしい。
私はこの場面が大好きなのでちょっと書いて説明します。

 

以下わりとネタバレなんで、記事を折りたたみつつ、未視聴で気になってる人はリンク貼っとくんでそっちへどうぞ。

 

 

 

 

 ***

 

パパは娘の誕生日に何を買ったらいいのかわからず、信頼する部下に対して「最近の若い子(おそらく小学校中学年~高学年)は何をプレゼントしたらいいだろうか?」と誕生日前日に聞きます。
そして夜、家に帰ってきたパパが娘にプレゼントの箱を渡す。娘が包みをあけると、そこには「WiiU(黒)」の箱が顔を覗かせる。
しかし娘は嬉しそうではない。いや、プレゼントを受け取ったときは多少なりとも嬉しげな顔をしていたのだが、中身を確認すると真顔になった。
パパも喜ぶだろうと思っていただけに、この娘のリアクションにはたじたじで「どうかしたのか?」と訊ねる。そのとき、娘が自室のテレビのほうを見ていることに気づく。
パパが視線の先を見ると、そこには全く同じ「WiiU(黒)」が鎮座している。
そして娘がトドメとばかりに「子どもの日に買ってくれたよ」とぽつりとこぼす。

 

 ***

 

まぁ~~~~このエゲつなさたまらないですよね。
自分が買ったプレゼントすら覚えてないほど、我が子に関心が無いんです。
誕生日を忘れているならまだしも、覚えていて、祝おうとする気持ちは本当なんです。だけれど日頃から関心がないからこそ、同じプレゼントを買ってしまう。
これならまだ誕生日自体を忘れているほうがマシでしょう。

 

もちろんこれだけ家庭にないパパなので、当然ながらママには愛想つかされてます。そして別居されてます。
そして全く同じプレゼントを渡してしまいめちゃくちゃ気まずいパパが「なにか欲しいものはないか?」と慌てて訊ねると、娘は「(ママが別居して暮らしている)プサンに行きたい。お母さんに会いたい」と答えるわけです。
実は仕事が忙しいからと、これまでにも何度かプサンに行きたいといっている娘の要望をパパは突っぱねているんです。これだけやらかしたパパに、もう断ることは出来ません。
そうして、パパはソウルから2時間弱のプサン行き高速鉄道へ娘と一緒に乗ることを決意します。

 

このいった「ギクシャクした親子」は、ホラー映画ではよくあるモチーフです。
困難を前に心をひとつにすることで、家族間のわだかまりを解消するのは、ホラーに限らずあらゆる映画で王道の展開でしょう。

 

親子が乗ったプサン行きには、他にも様々な乗客がいます。
妊婦とヤンキー崩れっぽい旦那、友達以上恋人未満な高校生カップル、他人を犠牲にしてでも生き残ろうとする金持ちクソ野郎、ホームレス、歳のいった姉妹。
最後の姉妹を高齢者枠とするならば、これらのキャラクターもパンデミック物ではよく見かけるモチーフです。

 

クローズド・パンデミック・王道キャラの羅列と、これだけでも実にゾンビ映画の王道って感じです。

 

しかし舞台は現代の韓国です。ちょっとやそっとの暴動でインフラが死ぬことはまぁありません。
高速鉄道の乗客たちはほとんどがスマートフォンを持っていて、車両にはTVモニターが設置されています。
高速で移動する車内で、動画サイトの映像やテレビの報道を見て、あるいは家族へ電話をかけて、情報を得ることができます。
だがここは時速数百キロで走行中の車内。情報を得れば得るほど、自分たちが絶望的な状況に置かれていることを知っていくわけです。ひどい話だよまったく。

 

主要キャラに関しては無駄死にのような場面がないのも、個人的にオススメです。
この手の映画だと予算や時間の都合で急に2、3人雑に死んだりするので。

 

グロっぽい描写も少ないです。腕がねじ切れ飛んだり、モツがはみ出したりとかそういう描写はないです。
ゾンビ映画を見慣れてない人でもすんなり見ることができるんじゃないでしょうか。


アマゾンプライムビデオでレンタル可能です。
吹き替え版/字幕版とありますが、吹き替え版は中村悠一さん、坂本真綾さん、小山力也さんなどアニメオタクに人気な声優が固められててオススメです。

 

吹き替え版

 

字幕版