たつこころかたよる

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悪いヤツほどオデコが出ている ~心理学で見る悪役のデザイン~

朝晩の冷え込み厳しく、冬らしい気候になってまいりました。

 

年末は海外の大型映画の上映ラッシュでもあります。
最近ですと『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使い』ですかね。気になってます。
『ファンタスティック・ビースト』はかの『ハリー・ポッター』シリーズに連なる作品です。

ハリー・ポッター』といえば、みんな大好きドラコ・マルフォイくんですね。
「おいポッタァ!」と、いかにも鼻につく態度で現れてくる印象深い悪役のひとりです。

マルフォイくんは態度や口調と同じく、その色味良い金髪を、後へ撫で付けたバッチリセッティングヘアスタイルが特徴的です。
悪役って、こういうしっかりとしたヘアスタイルが多い印象がありませんか?

 

悪役に見られがちなバッチリセッティングヘアスタイルを、心理学の観点から見ていこうと思います。

 

 
マズローの欲求5段階説】というものがあります。
アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローという人が提唱したもので、マズロー氏曰く「人間は欲望に向かって成長し続ける生き物だ」という説から成り立った理論です。

 

5段階説という風に、人間の欲求はピラミッド状の5段階に分けられると言います。
ピラミッドは上から順に

 

 ・自己実現の欲求
 ・承認欲求
 ・社会的欲求
 ・安全の欲求
 ・生理的欲求

 

に分けられます。

 

人間はこの5段階層を、下層から順に強く欲し、満たそうとします。

 

下層にあたる『生理的欲求』『安全の欲求』は、人間が生物として活動していくための最低限の欲求とされます
毎日ご飯が食べたい、怯えることのない寝床がほしい、清潔な服が着たい。などの、本当に最低限の欲求です。
生きる本能と言ってもいいでしょう。

 

中層にあたる『社会的欲求』は、『所属と愛の欲求』とも呼ばれます。
家族や団体、会社やサークル、友達グループなど、どこかしらの集団に所属していたいというものです。
人間が活動することにおいて、集団に属しているというのは基本的に利益があります。
誰かが自分の活動を手伝ってくれたり、守ってくれたり。
自己の目的のため、弱点を補うため、集団に所属していたいという、社会的に行きていくための欲求です。

 

上層の『承認欲求』は、けっこう有名なんじゃないでしょうか。
他人に自らを認めてもらいたい、という欲求です。
インターネットを見回せば、この承認欲求を満たそうとする活動であふれています。
認められるために様々なパフォーマンスを行うのもまた、人間の正しい欲求だと言えます。

 

最上層の『自己実現の欲求』は、「こうなりたい」という欲求です。
あるいは「こうでありたい」という欲求でもあります。
下層4段の欲求が満たされてなお、人間は「こうなりたい」と願い続けるので、技術や能力の研鑽を怠らないのだ、とも言えます。

 

さてここで話が戻ります。
『髪型がキマっているキャラクター』というのは、たいてい身なりがしっかりしています。なにせ、毎朝髪型までセッティングする余裕があるのですから。
身なりがしっかりしているというのは、毎日清潔な服を着て、しっかりとした栄養を取っているということになります。

この時点で、下層2つの『生理的欲求』『安全の欲求』は満たされていますね。
さらに、豊かであるならばおそらくは社会的に重要なポジションだと思われます。高給取りだったり、単純に権力があったり。
ここで『社会的欲求』が満たされていることがわかります。

 

身なりのしっかりした相手というのは、中層以上の欲求段階であるというのが理解できるでしょう。

 

残るのは『承認欲求』と『自己実現欲求』です。

 

『承認欲求』のある悪役とはどういったものでしょうか。
おそらくは「世界が自分を認めないから認めさせてやる……!」的なことを言い出すでしょう。いますよねーこういう敵。
「相手より自分が優れていることを証明したい」というのは、ライバルポジションが実によく言い出す動機でしょう。

 

もしこのライバルが、やせ細っていて、ボロ布をまとっていて、明日の宿もなく、腹をすかせながら「自分を認めさせてやる……」と吠えても相手にされないでしょう。
それどころか同情される始末です。
ハングリー精神が溢れている、という解釈もできますが、おおよそ脅威とは思われません。

 

では『自己実現欲求』のある悪役とはどういったものでしょうか。
きっと「世界が気に食わないから滅ぼしたい」とか言い出します。
邪悪ですね。話し合いの余地とかなさそうに見えますよね。もはや魔王とかですね。


悪役の動機にありがちなものといえば『復讐』でしょう。
誰かに愛する者を奪われた。
自分の地位や名誉を奪われた。
こういった動機での復讐は、5段階説的に解釈すれば「現在の欲求階層の消失」にあたります。
復讐が発生した時点で、その人間は欲求段階が一層下に下がってしまった、ということです。

 

人間は、自分より身分や地位が低い相手に対して哀れみの感情を抱きがちです。
『復讐』というテーマが痛ましく、胸を打つのは、ひとえに相手が自分よりも下層に落ちてしまったことによる同情、という解釈も出来ます。

 

逆に、復讐でもなんでもなく『ただ相手の命を奪いたかった』とのたまう存在に、同情する人間はいません。
それは相手の欲求段階が自分と同等、ないしは上層にあたるからです。
自分より豊かな人間を妬むのは、非常に人間らしい感情だと私は思います。
そして、相手の豊かな欲求があろうことか悪辣に向けられているとき、人は正義の鉄槌を望むのです。

 

同情の余地がない、というのは悪役として非常に優秀です。
妙に同情の余地があると、その悲しげな理由を汲み取れない主人公は一転して「心無いやつだ」と揶揄されることでしょう。

 

悪をより強大に、同情の余地などないように描こうとすると、基本的に主人公より欲求階層が上になります。
社会的な地位を持ち、その上で自らのために悪を為す。
相手のステータスの端的な現れというのが『髪型まで整った身なり』というわけです。


身なりがボロボロの悪役にも、もちろん意味はあります。
すべての欲求階層を無視してまで成し遂げたい、成し遂げた果てには破滅してもよいという意思が現れているもの。
あるいは、背景としての世界全体が貧しく、少ない食料や資源を奪い合っているのかもしれません。

 

逆に、過剰に豊かな悪役にも意味はあります。
極端な貧富の差は、その世界がディストピアを基盤としているというのをひと目で表せるからです。

 

最初に述べたドラコ・マルフォイのいる『ハリー・ポッター』の世界には、現役で貴族が存在しています。あの世界で、マルフォイは貴族を象徴するポジションです。
『貴族というのは、豊かで、しかし嫌味ったらしく、平民と仲良くする気がない』という世界説明を、マルフォイというキャラの発言で表現しています。

 

このように、悪役のデザインを紐解いてみると、世界観のデザインにまでつながっているということがわかります。
今後、そういった視点から物語を読んでみると、新たな発見があるやもしれませんね。